糖尿病と歯周病
(画像は厚生労働省のHPより)
お口のなかの環境が全身の健康状態に影響するということはかなり以前から研究、報告されていますが近年、特に注目されているのが歯周病と糖尿病との関連です。直近の保険歯科診療改定にも科学的根拠(エビデンス)が厚生労働省にも認められ糖尿病をお持ちの方へのより充実した歯周疾患管理が採用されることになりました。ここで、私の忘備録もかねて糖尿病と歯周病との関連を記載してみます。
研究、報告されていたものをまとめると、エビデンスレベルが高いもの、まだ低いものも含めて以下のようになるようです。
(1) 糖尿病の人は歯周病の罹患率が高い
(2) 糖尿病の人は歯周病がより重症化しやすい
(3) 糖尿病の罹病期間が長い人ほど、歯周病の罹患率が高い
(4) 血糖コントロールがよくない人は歯周病がより重症化しやすい
(5) 歯周病が重症化している人ほど血糖コントロールがよくない
(6) 歯周病の人は糖尿病の罹患率が高い
(7) 歯周病の人は糖尿病でないとしても糖尿病予備軍であることが多い
(8) 糖尿病の人が歯周病をしっかり治療するとHbA1Cが改善する
つまり、歯周病と糖尿病は相互に悪化と改善を影響しあっているということです。
わかる範囲でその影響について調べてみました。
<糖尿病→歯周病>
唾液の量と質の変化
高血糖状態では、浸透圧の関係で尿がたくさん出て脱水状態になります。その結果、唾液の量が減り、口渇、自浄作用の低下により歯周病菌が繁殖しやすくなります。また唾液は血液から作られますが高血糖下では、唾液や滲出液の糖分の濃度が高くなります。そのような状態も、歯周病菌の繁殖に適しているようです。
細菌に対する抵抗力が低下する
高血糖状態では、細菌を貪食する好中球(免疫機能の細胞)の働きが低下するようです。つまり、感染防御機構が十分に機能しなくなるということで様々な感染症にかかりやすくなり、感染症である歯周病も起こりやすくなります。
組織の修復力が低下する
糖尿病はたんぱく質の代謝も変化するようです。その影響で歯周組織内のコラーゲンの減少や性質の変化により、歯周組織の弾力性が失われ、破壊された組織の修復力も弱くなります。さらに高血糖状態では、過剰なブドウ糖がたんぱく質と結び付いて
AGE(最終糖化産物:糖尿病合併症の主要原因のひとつ)が作られるそうで、歯肉組織に AGE が蓄積すると、そこに炎症を起こしたり、組織を傷つけ、歯周病の発病・進行を招きます。
肥満の影響
体の脂肪は単にエネルギーを貯蔵するだけの存在だと考えられていたのですが、近年、脂肪細胞では様々な作用をもった物質が作られていることがわかってきているようです。そのいくつかは、組織に炎症を起こすように作用するようです。歯周病は細菌感染によって歯周組織に慢性の炎症が起きる病気です。肥満のために脂肪組織から分泌され続ける炎症物質は、歯周組織にも影響を与えて歯周病の危険を高めるようです。
合併症の影響
糖尿病の罹病期間が長くなると、全身の血管に障害が起き、それが様々な合併症の主原因となります。特に、血管径の小さい細小血管にその影響が現れやすく、末梢組織の(歯周も末梢)血流量低下から感染を長引かせたり、組織の修復を妨げたりします。また、糖尿病の合併症で、骨粗鬆症があります。歯周組織の炎症で歯槽骨が減少する病気である歯周病に、その影響は、十分考えられるそうです。
<歯周病→糖尿病>
歯周病で血糖値が上がる理由
細菌感染症によってインスリン抵抗性が生じる
歯周病は細菌感染でそれは長期間による影響であるため慢性感染症だということになります。治療を継続していないと、歯周組織に住んでいる細菌は常に活動期になります。ときには、歯肉の毛細血管から血液中に細菌が入り込み、菌血症を起こすことや歯周病菌から出される毒素が歯肉から血管内に入り込むこともあります。このような時、ヒトの体は例えば免疫細胞であるマクロファージからの腫瘍壊死因子α(TNF-α)など様々なサイトカイン(免疫に関するたんぱく質)を分泌して、細菌やウイルスに対抗しようとします。それらのサイトカインは、インスリンの働きを阻害または膵β細胞からつくりにくくして「インスリン抵抗性」という状態を生じさせます。インスリン抵抗性に対して、からだはなんとかしようとして、より多くのインスリンを産生しようとします(高インスリン血症)。しかし高インスリン血症が長く続くと、インスリン産生細胞である膵β細胞が疲労し、末期の糖尿病となります。慢性感染症である歯周病を放置すると、体は常にインスリン抵抗性の状態になっていると考えられます。
歯周病治療による糖尿病への影響
慢性炎症としての歯周炎に対する適切な治療により、糖尿病のコントロール状態をあらわず糖化ヘモグロビン(HbA1C)の改善がみられることが明らかになってきました。その仕組みとして、歯周病治療によって歯周炎に起因する腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産生量が低下するため、インスリン抵抗性が改善し血糖コントロールが好転すると考えられています。